道筋が見えない特許技術の製品化をラスターワークスのラボ型開発で実現 一括請負よりも低コストかつ高いアウトプットを生み出す
特殊な印刷を施した紙のカードをタブレットやスマートフォン向けの画面にタッチさせると、指定のWebページや特別な映像、画像、音楽などのコンテンツに簡単にアクセスできる「TOUCHCARD®」。そのユニークな技術を持つTouchcard 株式会社(以下、Touchcard社)ですが、製品化への実現は簡単ではありませんでした。技術に関する特許は取得済みでしたが、技術の実装方法は誰もわからない状態で、カードの印刷方法に加え、端末やWebブラウザの挙動の誤差の吸収など、製品化には多くの課題がありました。この課題に立ち向かうべく、Touchcard社では株式会社ラスターワークスとラボ型契約をし、開発を進める体制を構築。ディープラーニングやサーバレスクラウド基盤など最新技術の活用により製品化を実現し、事業成長を続けています。
国内ラボ型開発サービス
スマートフォンアプリやWebサービスなどの受託開発の形態として、国内の開発の工数枠を提供するサービス。開発手法がわかっていないもの、精度を高めるためのチューニングといった、試行錯誤が必要なため最初に成果物の見積が困難な場合に向いている。一括請負の場合は仕様に基づいた成果物について納入・検収を経て一括払いとなるが、ラボ型開発の場合は月次に定めた工数による支払いとなる。
特許は取得していたものの、実装方法が不明
ユニークな商材を実現する開発体制を模索
Touchcard社は、スマホやタブレットの画面にかざすことで、動画や音楽、クーポンなどの限定コンテンツを提供するWebページを表示できるカード型デバイス「TOUCHCARD®」を提供しています。TOUCHCARD®にはオリジナルのデザインを印刷することができ、プロスポーツやコンサート、各種イベント、ファン心理をくすぐるトレーニングカード、店頭販促品、集客ツールとしての利用が進んでいます。
Touchcard社 執行役員の澤田 毅氏は「アニメやゲーム作品、スポーツチームなど、ファンがたくさんいらっしゃるようなお客様にご利用いただいています。カードの配布だけでなく、Webサイトとの連動により利用者がどのように活用しているかといったデータの分析もできます。カード型で、スマホにタッチする楽しさがありますので、チラシと比べると捨てられず、サイトへのアクセス割合が高いです」と製品の特長を話します。
TOUCHCARD®は、トレーディングカード内部に、導電インクにより独特のパターンを示す回路が印刷されています。通常、スマートフォンの画面スクリーンはタッチする手の静電気を利用しますが、TOUCHCARD®では、カードを持った手の静電気を、回路を通してスマートフォンなどのタッチパネルに伝えます。それをスマートフォンのWebブラウザ上で、カードから送られるパターンの座標を取得してサーバに送信。サーバ側には「パターン認識エンジン(以下「認識エンジン」」があり、届いた座標を認識し、それに応じたコンテンツ表示などの処理を行うという仕組みです。コンテンツを提供するWebサイト側は、画像や動画、音声、リンクなど、顧客の要望に応じたものを設定可能です。
TOUCHCARD®の仕組みは特許取得が先行していて、その後2015年ごろから「認識エンジン」の開発が始められました。澤田氏は「特許技術をどう実装するかの道筋が見えていない状態でした。とりあえず動くものはできましたが、期待した精度ではありませんでした。試行錯誤の必要性を感じ、前職でお付き合いのあったラスターワークスさんに相談したのです」と経緯を語ります。
週次でテーマを決めて地道な開発を進める ディープラーニングが課題解消の糸口に
ラスターワークスとは、最初に仕様を決めて成果物を見積もってから進める一括請負での契約ではなく、予算に応じて国内の開発者の工数枠を確保し、月々の支払いとなる国内ラボ型開発での契約を結びました。「カード側の回路のパターンも正解はなく、『認識エンジン』実装も正解がない状態です。カードを試作しつつ、Webブラウザごとの挙動の差異を吸収するなど、日々試行錯誤が必要なため、ラボ型契約にしました」と澤田氏。
毎週1回、メンバーが集まり、前週までの結果を踏まえてその週の開発テーマを決める会議を開催。1週間の開発を経てまたメンバーが集まり振り返る。といったスタイルで開発は進んでいきました。こうして2016年の夏頃から開発が進められた「認識エンジン」は、およそ3ヶ月後にその原型が完成することになります。澤田氏は「ラスターワークスからは、端末ごと、ブラウザごとの誤差を吸収するために、ディープラーニングを活用するという提案を受けました。誤差の分布データをあつめて統計をとることで精度を高めるというアプローチです。当時としては新しい技術の提案があったのも、依頼をする決め手になりました」と当時を振り返ります。
ラスターワークスは、さらに精度を高めるチューニングをおこない、2017年の夏にTouchcard社はついに製品化を実現。最初の事例は、CDショップの店頭で配布する購入者特典カードでした。澤田氏は「3種類のカードがあって、一定金額以上購入すると1枚もらえるというキャンペーンです。ファンの人たちが3種すべて集めたいということで、客単価の向上に寄与できました」とTouchcard社として初の成功事例について話します。
事業拡大を実現するため代理店による拡販を構想 急な変更や新しい要件にも応える信頼関係が大事
こうして事業化できた Touchcard 社だが、社内の営業リソースが少ないため、澤田氏は代理店による拡販を計画する。「デモンストレーションを見せると反応はいいのですが、Webページやコンテンツを用意したりする手間がかかります。私 1 人では限界がありますので、代理店さんが手軽にデモンストレーションをして、顧客にサービスを素早く提供できるようなシステムの必要性も感じていました」と澤田氏は振り返る。
こうして事業化できたTouchcard社ですが、社内の営業リソースが少ないため、澤田氏は代理店による拡販を計画します。「デモンストレーションを見せると反応はいいのですが、Webページやコンテンツを用意したりする手間がかかります。私1人では限界がありますので、代理店さんが手軽にデモンストレーションをして、顧客にサービスを素早く提供できるようなシステムの必要性も感じていました」と澤田氏は振り返ります。
ラスターワークスは「認識エンジン」だけでなく、サービスを提供するためのWeb側のバックエンドシステムの開発も担当しました。サーバ環境はAWSを活用しており、2017年当時では事例の少なかった、サーバレスのアプリケーション実行サービス「AWS Lambda」環境への移行も行われました。澤田氏は「移行したら、ランニング費用が劇的に下がりました。ラスターワークスさんにとって『AWS Lambda』を使うのは初めてだったそうです。ディープラーニングといい、新しいことに挑戦してくれるのは頼もしいです」と評価します。
ビッグローブ株式会社などの大手代理店のTOUCHCARD®販売により、事業は順調に拡大しています。ビジネスモデルは、枚数に応じたカード発行料金と、Webサイト側の月額利用料です。概算で2017年から2018年にかけてカード発行数は10倍に伸び、2018年と2019年ではさらに10倍と、飛躍的に成長しています。
現在は運用フェーズに入っているため、ラスターワークスとの契約はラボ契約から保守契約に移行しています。事業開始から現在まで、システムは安定稼働し、サービスが停止するなど、目立ったトラブルは皆無です。澤田氏は一連の開発プロジェクトを振り返り、ラボ型契約だったからこそコストパフォーマンス高く実装できたと感じていると言います。「一括請負の場合は、仕様を決めた通りに作って、それがだめだったら仕様変更となり、別途費用がかかります。今回のような開発の場合は、その道筋が決まっていないため、必ず手戻りが発生してしまいます。毎月の予算に応じて試行錯誤ができるラボ型にしたことで、余計なコストがかかりませんでした」と澤田氏。
Touchcard社は2019年末に、アニメグッズなどの量販店とTOUCHCARD®がコラボした企画で大きな成果を上げており、澤田氏はファン心理をくすぐるTOUCHCARD®への手応えをさらに強めています。今後の展望を聞くと「アニメ関連のグッズは、店舗単位からチェーン店やコンビニでの展開へ、スポーツチームのグッズは、チーム単位からリーグ単位へ、また海外での展開など、よりたくさんの人に楽しんでいただけるよう事業を成長させたいです」と述べます。
TOUCHCARD®の開発を支えたラスターワークスについては「成長に伴ってシステム投資が必要かと思います。期限内に高い品質のものをアウトプットできるラスターワークスを信頼していますので、大きな開発が発生する際はまたラボ契約をお願いしたいです」と変わらぬ信頼と抱負を語りました。
社名 Touchcard 株式会社
設立 2014 年 2 月 4 日
所在地 東京都中央区日本橋人形町 2-34-5 SANOS 日本橋 6F